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夜に見えるもの

, 2018/12/26

田舎に住むようになって、夜ってこんなに暗かったのかといまだに驚く。特に東京から戻ってきて駅から家まで歩く道。視力があまりよくないので星がきれいとかそんなことは思わない。ただただ暗いなあと思う。脇を流れる川のせせらぎの音が耳に入ってくる。同じ道を通っていても昼間は聞こえたことがない。車道から外れると本当に真っ暗になる。おばけが出たら嫌だななんてことを年甲斐もなく思ったりもする。

暗さというものは人にどんな影響を与えるのだろう。単に視界がきかないというだけではない。他の器官の感覚は勝手に高まり、心のなかに思ってもみなかったものが立ち上がる。

ノンフィクション作家・探検家の角幡唯介は、太陽がまったく昇らない極夜と呼ばれる時期に、グリーンランド北西部の村から北極点を目指す冒険に出る。しかし彼の本当の目的はゴールへたどり着くことではない。

彼はこの冒険の目的を「システムの外にでること」だという。システムとは現代社会のこと。食べ物は簡単に手に入り、スイッチを押せば明かりがつく。GPSで自分のいる位置がわかり、誰とでも連絡がとれる。極点や最高峰を目指す冒険ですらネットを通じて実況される時代においては、前人未踏の地さえシステムのなかにある。

極夜の地を日が昇るまでの数ヶ月の間、一匹の犬とともに、限られた食料を持って80日間ただ歩く。地図と、過去に通った自分の記憶と、六分儀と呼ばれる天体の位置から角度を測定する道具を用いて、進む方向を決めていく。美しい景色もなければ、胸踊る達成もない。代わりに共有できるのは、暗闇であり、そして空腹であり、ここで死んでしまうかもしれない不安だ。激しいブリザードでどんどん雪が積もって狭くなるテントの描写には息苦しさを感じるし、この方向でいいのだろうかと何度もコンパスを確認する様子には、どうしようもない不安が湧き上がる。空腹の末に、ついに出会った狼を息を潜めて銃で狙うときには同じように息を潜めてしまう。彼の文章にはつねにユーモアがあって、そのことが逆に生への強い気持ちを感じさせる。文章だからこそ頭のなかに豊かに広がる、現代の冒険物語だ。

極夜行 角幡唯介 文藝春秋

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