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  • Photography: Yasuyuki Takagi
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明日へ向かう、ブラジル音楽。伝統と革新をつなぐ、静かな野心

, 2016/07/19

過去へのリスペクトと、未来への希望。ふたつの想いを胸に秘め、独自の道を模索する、リオ在住の若き注目ミュージシャンたち。彼らの発した言葉から、ブラジル音楽の豊かな未来を探っていく。

「父のマリオがいつもジョビンを聴いていて、その旋律が体に浸透していった。6歳でギターを始めた私に父が言ったのは、方法を知らなくてもとにかく曲を書き、プレイしなさいということ。だから私は自分流の方法を見つけなきゃと思った」

自らの書いた繊細なメロディをなめらかなギターで優しく聴かせる、アントニア・アヂネー。新世代のボサノヴァミュージシャンとして注目される彼女は昨年、『Tem+Boogie Woogie no Samba』というユニークなアルバムを発表。40~50年代のサンバの名曲を新鮮なアレンジで仕上げたユニークな作品だ。
「ジョアン・ジルベルトが発明した奏法はもちろん偉大なもの。そう考えて、私はジョアン以前にも、リオにはたくさんの発明があったことに想いを馳せるようになった。だからこのアルバムでは歴史に残る名曲を取り上げ、それらを時代に合った形で表現しようと思ったの。私たちの世代がすべきは、遺産を受け継ぎ、音楽の世界を拡げることだから」

DJだった兄から多様な音楽のエッセンスを吸収したアレシャンドリ・カシンは、ロックを入り口に音楽の世界へ。クラブではヒーローであり、プロデューサーとしても辣腕を振るう彼に、ジャンルの壁はまったくない。
「ボサノヴァ、サンバ、エレクトロ、ロック、何でもプレイする。毎日、異なるジャンルのミュージシャンとプレイするから頭のなかはいつもフレッシュだよ。ひとつのキャラに固執するほうがストレスを感じると思う。今の音楽シーンでは、音質やバンドの編成でも新しいチャレンジがもっと必要だと思う。だから僕はトルコのユニークな楽器であるエレクトリック・サズとか、三味線なんかも弾くんだ」

もちろん、幼少のころに聴いたボサノヴァの影響は少なくなかったというカシン。その精神は体に浸透し、先人の偉業は自身の活動にも活きているという。
「ボサノヴァが教えてくれたのは、音楽がハッピーでジョイフルで、異なる世界へ連れていってくれるものだということ。近年、若い世代がボサノヴァを聴かなくなってしまったというけど、ミュージシャンだって毎日変化しなきゃいけないし、ブラジル音楽特有のミクスチャー文化は今でも活気があると思うよ」

50年代、60年代をブラジル音楽の黄金期と捉える向きは少なくないが、カイオ・マルシオはちょっと違った見方をしている。彼の軸足は両親の影響で染み込んだクラシックとショーロ、そして少年のころから聞き始めたジャズにある。
「ヴィンテージの音楽は好きで、たとえばショーロのメロディに導かれながら、現代的な音楽をつくることもある。ショーロはボサノヴァよりもレパートリーがあって、今でもどんどん生まれ変わっている。若い世代にも受け入れられているしね。それに、現代には昔とは比べものにならないくらいほど多様なジャンルがあって、しかもどんどん細分化している。それはリスナーの許容範囲が拡大しているってことでもあって、昔もいい時代があったとは思うけど、今の時代は音楽家にとって恵まれているんじゃないかな」

そんな彼もジョビンの影響を受け、多くを吸収した。とりわけジョビンのジャズにおけるセンスには突き動かされる部分も大きかったという。
「数年前、デンマークの著名ジャズサックス奏者と知り合いになって、彼女とバンドを始めた。海外ツアーも増えて、ブラジル音楽を世界に広めたいって気持ちも強くなってきた。将来はリオを出て、海外を拠点にするかも。今はスピードやスキルを競うような音楽も多いけど、メロディやハーモニーを重視するブラジル流のジャズをもっと知ってほしいね」

ジョビンの娘であるマリア・ルイーザ・ジョビンも、リオで注目される若手音楽家のひとり。父の偉業をしっかり理解しつつ、自らが歌うのはエレクトロ・ポップ。彼女は作曲も精力的にこなし、「いつも脳のなかで父と歌っている」と笑う。
「私は父と違って、家のなかで過ごすのが好き。ここで曲をつくったり、ピアノを弾いたり。影響を受けたのはYMOやレディオ・ヘッド、ビヨークとかかな。1曲ずつ味わいの異なる、カメレオンのようなアルバムをつくっていきたい」

ボサノヴァはもちろんDNAに組み込まれているというが、活動において必要以上の気負いはない。ゆっくりと確かに、歩を進めていくつもりだという。
「リオではエレクトロのジャンルがまだまだ弱い。だからビジネスとしては難しい部分もあるけど、私はなにより実験的な活動が好き。いかにブラジル人らしい曲をつくり、それを挑戦的に表現するか。時代の変化に対応しつつ、新しいポップスを構築していきたいと思っているの」

アントニア・アヂネー
Antonia Adnet
1985年、リオデジャネイロ生まれ。ジョビンとのプレイ経験をもつギタリスト、マリオ・アヂネーを父にもち、新世代のボサノヴァを体現する期待の若手ミュージシャン。同じくブラジルで人気のシンガー、ホベルタ・サーのバンドメンバーとしても活躍し、流麗なギターテクニックと可憐な歌声で評価を得ている。

アレシャンドリ・カシン
Alexandre Kassin
1974年、リオデジャネイロ生まれ。プロデューサー、シンガー、作曲家であり、ギターやキーボードをはじめ、いろいろな楽器演奏もこなすサウンドクリエイター。エレクトロサウンドとソウルフルなヴォーカル、ロッキッシュなギターといったさまざまな要素を融合した楽曲など、革新的な音楽の創造を続けている。

カイオ・マルシオ
Caio Marcio
1982年、リオデジャネイロ生まれ。ショーロバンドで活躍後、04年にギタリストとしてソロデビュー。近年ではデンマークの実力派ベーシスト、モルテン・アンカフェルドとともにボサノヴァ、ジャズ、ショーロをミックスした作風に挑戦。最新アルバム『RIO JAZZ4』は、新世代のブラジル音楽誕生を告げる快作だ。

マリア・ルイーザ・ジョビン
Maria Luiza Jobim
1987年、リオデジャネイロ生まれ。幼いころには、トム・ジョビン作の『Samba de Maria Luiza』で、父とのデュエットを披露した。エレクトロサウンドに傾倒し、2013年には自身のユニットOPALAから曲をリリース。トリップホップに近いテイスト、凜とした歌いっぷりが印象的で、作曲も自らで手がけている。

» PAPERSKY #50 Rio de Janeiro | Bossa Nova Issue

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