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カフェオーナー兼マスター 堀内隆志|Papersky Interview

, 2016/06/06

鎌倉のcafe vivement dimanche(カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ)は、美味しいコーヒーが飲めるだけではなく、ブラジル音楽のCD、書籍なども楽しめる異色のお店。オーナーの堀内さんは、ブラジル音楽の研究家として本の出版やCDの企画など、多岐にわたる活動を長年、続けてきた。なぜ現在のようにユニークな活動を行うに至ったのか。ブラジル音楽との出会いを皮切りに、話を訊いていった。
 
―まずは、カフェを経営しながらなぜ、ブラジル音楽に興味をもったかについて教えてください。

カフェに来る常連さんからいろいろな音楽を教えてもらったなかで、自分が特に好きになっていったのがブラジル音楽でした。それと、カフェ開店後、お店で読めるフリーペーパーを制作するようになったんです。その誌面では音楽を紹介する企画があって、フリーランスの方に記事を寄せていただいていた。そこでブラジル音楽が紹介されていたのも、僕がのめり込んでいったきっかけです。なかでもカエターノ・ヴェローゾ&ガル・コスタのアルバム『ドミンゴ』には驚きというか、衝撃を受けました。
 
―その後、音楽を目的にブラジルへ何度も行くことになりますよね。何が堀内さんを突き動かしたのでしょうか?

日本ではボサノヴァのミューズといわれていたナラ・レオンですね。彼女の人生は知れば知るほど奥深い。ナラのことをもっと掘り下げたい、知りたいというのがブラジルへ行く動機になりました。
 
―ナラ・レオンのどのような部分に興味をもたれたのでしょう?

2000年に彼女の伝記が出版されて、もちろんすべてポルトガル語で書かれていたんですが、好奇心が勝って、辞書を片手に読み進めていきました。そこに書いてあったことがどんどん僕の興味を引いていったんです。たとえば、リオにあるナラ・レオンのアパートでボサノヴァが誕生したというのは有名なエピソードですが、彼女がボサノヴァ隆盛の中心にいたかといえばそうでもなかった。1964年は彼女がデビューした年であると同時に、ブラジルに軍事政権が誕生した年。たしかにナラはボサノヴァの誕生に関わったのですが、デビュー当時にはすでに政治への関心が強く、独自の路線を歩み始めた。その後、ナラはパリに行き、1972年頃に帰国していますが、彼女が本格的に再びボサノヴァを歌うようになったのは、1984年に軍政が終わった年だった。パリを境に彼女の音楽性は大きく変化したわけです。一方、デビューしたてのころ、下火だったサンバに脚光を当て、実力のある若手アーティストの楽曲を広く紹介するといったことにも力を入れたり、ミュージシャンでありながら絵も描いていて、ジャケットのグラフィックなどにも彼女は非常にこだわっていた。僕はもともとフランス文化に興味をもっていたので、ナラがジャンヌ・モローやフランソワーズ・アルディといった人々と交流をもっていたことなどもおもしろいと思った。そんな彼女のキャリア全体がとても興味深く感じられて、僕の研究はどんどん進んでいったんです。
 
―その後、堀内さんはナラ・レオンのベストアルバム発売などにも関わっていきますよね。それはどのような経緯だったのでしょう。

日本では数枚のCDが発売されている程度だったので、レコード会社の方にベストアルバムをつくれないか、相談したんです。最初は難色を示されたんですが、そのころ僕が担当していた雑誌の連載ページで、ナラ・レオンを特集して、それと連動したアルバムを出したらどうかと提案したところ、企画がとおった。結局、2002年に僕が企画したナラのアルバムを2枚、リリースすることができたんです。そのことを本人に報告するため、お墓参りを兼ねてブラジルへ行ったのが初の訪問でした。
 
―現地へ行くようになって、ブラジルという国にどんな印象をもちましたか。ブラジルの人々はやっぱりボサノヴァを愛している、という実感はありましたか。

初めての訪問ではリオとサンパウロ、サルバドールへ行きました。リオの街を歩いていて印象的だったのは、太陽の光と気持ちよい風。こういう場所でボサノヴァやサンバのような音楽が生まれたんだなと理解できた。それにブラジルの人はやっぱり音楽が大好き。街に音楽が溢れている感じですよね。でも、サンバはカフェやレストランで流れていても、ボサノヴァが流れてくるというシーンはなかったんです。ボサノヴァ専門のクラブではもちろん聴けるんですが、現地ではちょっと古い音楽として認識されているんだなと。
 
―ナラ・レオンをはじめ、ボサノヴァという音楽を研究し、ブラジルへ何度も足を運んだ経験から、この音楽の性格をどのように認識していますか

当時、学生が中心になってボサノヴァが盛り上がったというのはよく知られている話です。つまり国民全員が愛したということではなく、大学に行ける人たちというか、上流、中流階級の人たちがムーブメントの中心にいた、というのは事実だと思います。
 
―ナラ・レオンへの興味、ブラジル音楽への愛情は今も変わりませんか?

もちろんブラジル音楽は大好きですが、2010年にナラの翻訳本出版に関わり、自分としてはひと区切りがついた。それと、ここ数年はコーヒーの焙煎を始めるようになって忙しくなってしまったのもあって(笑)。焙煎はひと筋縄ではいかないし、何か他のことを研究しながらっていうのはなかなか難しい。自分はそのときどきで興味のあることにのめり込むタイプなので、ナラ・レオンに対する気持ちは以前とちょっと変わってきてはいますね。2008年ごろからダニ・グルジェルというサンパウロの女性アーティストが気に入っていて、彼女とは直接、交流するようにもなりました。ダニの音楽を日本に紹介するということも行っていて、最近では日本でも知られるようになってきました。ブラジル音楽はやっぱりおもしろいという気持ちが、自分のなかでは続いていますね。
 
―それでは美味しいコーヒーづくりへの取り組みについて聞かせてください。焙煎にはどのような大変さがあるのでしょう。

カフェを始めてから15年くらい、カウンターでコーヒーをいれていたわけですけど、焙煎なんてそこまで難しくないだろうと思っていた。でも実際、やってみたら思いどおりの味が全然できない。自宅に焙煎機を導入したので毎日、格闘していたんですが、初めはほとんどノイローゼ状態でした(笑)。焙煎機のちょっとした汚れとか、自分のもっている味の記憶とか、さまざまなことを考えて、試すことでしか思いどおりの味が出てこないんです。人それぞれでしょうけど、僕は、悩まないと焙煎ではいい味を出せないと思っていますね。今ではノイローゼとまではいきませんが、やっぱり悩み続けています。昼間は店に出ていて、夜7時に閉め、家に帰ってご飯を食べるのがだいたい、8時とか9時くらい。食事が終わったらようやく10時過ぎくらいに焙煎機のスイッチを入れて、夜中の3~4時まで。だから音楽を聴くのは焙煎の合間に、という感じですね。
 
―日本とブラジルのカフェ事情についてどんな印象をもっていますか。やはりコーヒー豆生産国として世界一のブラジルは、カフェ先進国なのでしょうか。

それが意外にそうでもないんですよね。ブラジルはあくまで生産国ですから、国内ではそんなに質のいいコーヒーが飲まれていなかった。良質なものはすべて輸出してしまうわけです。抽出にしても日本のほうが進んでいるでしょう。生産国の規制があって、ブラジルでは他の国のコーヒーもなかなか飲めない。だから国内での品種改良などが逆に進んでいく、という現象も起きています。ここ10年くらいで、先進的なカフェが少しずつ増えてきているといった流れも見られますね。やっぱり農園で実際に収穫しているシーンとか、生産の現場を見ると刺激を受けるので、コーヒー関連の仕事をする身としては、ブラジル訪問は意味のあることだとも感じます。
 
―リオへの旅で、おすすめの場所などはありますか?

街を歩いているだけでももちろんおもしろいんですが、海と山の景色を一望できるヘリコプター観光はベタですけどおすすめですね。誰でも知ってるコルコバードのキリスト像ですが、空から見るとやっぱり迫力がある。15分くらいの飛行でもリオを知るにはいい方法だと思います。
 
―コーヒーの提供とブラジル音楽、今後はどのようなバランスで活動をされていきたいと考えていますか?

コーヒーの味って焙煎によって大きく変わってくるし、いろいろな味のコーヒー豆も出てきている。僕自身、思ったとおりのコーヒーの表情を表現したいし、それをお客さんにきちんと伝えられればと考えています。また、このカフェの空間は外のスペースともつながっているようなつくりになっていて、誰でも入りやすい雰囲気になっていると思う。だからこれからもいろいろな人に来ていただいて、コーヒーのファンには音楽を、音楽のファンにはコーヒーをという具合に、うちのカフェならではの提案をしていきたいですね。
 
堀内隆志(ほりうち・たかし) 
1967年生まれ。鎌倉のカフェ「cafe vivement dimanche」マスター。カフェ業のかたわら、ブラジル音楽の紹介にも注力し、CDのプロデュース、ラジオのパーソナリティ、書籍や雑誌への寄稿など幅広く活動。著書に『珈琲と雑貨と音楽と』(NHK出版)、『コーヒーを楽しむ』(主婦と生活社)、監修では『ナラ・レオン 美しきボサノヴァのミューズの真実』(SPACE SHOWER BOOKS)などに関わる。

» PAPERSKY #50 Rio de Janeiro | Bossa Nova Issue

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