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  • Photography: Yasuyuki Takagi
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Old Japanese Highway、日本の古道 vol.10 吉野から高野山へ

, 2019/12/24

偉大な思想家であるばかりか、日本各地で道を拓き、井戸を掘り、橋をかけ……マルチに活躍した弘法大師は、歩く旅の達人でもあった。連載10回目は、PAPERSKYクルーが不思議な縁を感じている弘法大師の足跡をたどる。大師が聖地・高野山を見出した、「弘法大師の道」55kmの旅へ。

空海(後の弘法大師)は奈良時代末期の774年、今の香川県善通寺市で地方豪族の三男として生まれた。少年のころから非常に聡明で、垣武天皇の皇子の教育係を務めていた伯父に漢語や詩文の手ほどきを受けたそうだ。15歳になると京都に上がり、本格的な学問の道へ。しかし、高級貴族の子弟ばかりという環境に身を置くには空海は聡明すぎた。エリート官僚になるための世俗的な学問に失望し、大学をドロップアウト。ちょうどそのころ、ひとりの僧侶から「」という密教の修行法を授けられ、仏教の世界に道を見出す。やがて空海は何物にもとらわれない自然の知恵(自然智)を求め、四国や奈良の山々を巡るようになる。そんな若き空海が高野山を見出すために歩いたのが、「弘法大師の道」だ。詩文集の『性霊集』には「少年の日に吉野山から南に1日、さらに西に2日歩いて高野山に至った」という記述があるが、「弘法大師の道」はこのときに空海が歩いた吉野山・高野山を結ぶ道を蘇らせたもの。現在ではトレランの大会「Kobo Trail」も開かれている。

1日目早朝。「弘法大師の道」の起点となる吉野山・へ、旅のゲスト、パスカルとともに向かう。フランス人のパスカルは、全行程2,000kmを超える超長距離ライドイベント「ジャパニーズ・オデッセイ」を完走したこともある、エリートサイクリスト。この周辺にもチェックポイントが設けられていたそうで、自転車で一気に駆け上った吉野山を懐かしく思い返している。「ジャパニーズ・オデッセイ」には自転車に乗って日本の神話の舞台を訪れるという意味があるそうだが、「神話の世界そのままの幽玄な風景に心を奪われた」とか。

金峯山寺は大峯山系を中心とした山岳修行の本場。現在は修験の伝統を守りつつ、吉野から熊野に至る「」の維持を担っているのだが、もともとは金峯山全体に広がる霊場の総称だった。ここでその歴史を振り返ってみよう。古代から吉野山は“仙境”として広く信仰を集めてきた。たとえば修験道の開祖、役行者()はここで命がけの修行に励んだし、大海人皇子は壬申の乱を起こす前年、大友皇子の攻撃から身を守るために吉野山で出家している。源頼朝から追討を受ける義経が、静御前を伴って訪れたのも吉野山だし、後醍醐天皇はここに南朝を築いた。

僧侶の鷲須晴徳さんに案内していただき“修験道の原点”といわれる本堂の蔵王堂にお参りしたのち、いよいよ出発。途中、吉野名物の柿の葉すしを買ってザックのなかへ。金峯神社から大峯へ続く山道が始まる。本日の行程の前半部、大天井ヶ岳までは大峯奥駈道をそのままなぞる。

奥駈道は急峻な山々が連なる大峯山系の尾根に沿うようにしてつけられており、よく整備はされているがさすがに険しい。「ここを整備する人がいて、拓いてくれた人がいて、歩かせてくれる自然がある。山に入らせてもらえることに感謝の念が湧き上がる」という鷲須さんの言葉が蘇る。小刻みなアップダウンを経て四寸岩山までを一気に登り、少し下ったのちに「弘法大師の道」で最も標高が高い大天井ヶ岳へ向けて一気に登り返し。あいにく雨も降ってきた。雨脚が強くなるなか、奇跡のように足摺小屋という避難小屋が見えてきた。大峯参りを行う講社が修験者のために寄贈したものらしい。土間にベンチが設えられており、ビバークには不向きだが雨宿りにはぴったり。ここで大雨をやり過ごす。

小雨になったところで再び出発。つるつる滑る岩肌を、鎖を使ってどうにか登り、ようやく弘法大師の道で最も標高の高い大天井ヶ岳山頂に到着する。あいにく、厚い雲に覆われており眺望はゼロ。「弘法大師の道」の看板をたどり、奥駈道と別れて細道へ。滑りやすい急斜面をどうにか通過し、小南峠まで一気に下る。

この日は温泉に宿泊する。温泉そのものの歴史は浅いが、大峯山(山上ヶ岳)の登山口があり、役行者の弟子であるの子孫が切り拓いたという逸話から、洞川は“修験の里”として知られ、古くから大峯講の宿場として栄えた。近隣には龍泉寺や天河大辨財天社などの霊場があり、シーズンには全国から行者が集まるそうだ。街には行者宿や、役行者がつくったとされる和薬の元祖「」の販売店などが軒を連ねていて、昔ながらの温泉街の風情がパスカルを喜ばせる。

「弘法大師よりも先に役行者が修行をしていたこともあり、大峯山は行者憧れの地。昔は貴族しか入れない神聖なエリアで、庶民が入れるようになったのは江戸時代になってから。家族で大峯参りをしたり、講社を組んで毎年、山に入ったりということが盛んに行われていたそうですよ。洞川には歩荷や山案内を行うのような者もいて、町はおおいに賑わっていました」

洞川の移り変わりを話してくれたのは、旅籠「角甚」13代目当主で、現在は大峯山寺の信徒総代も務めている角谷甚四郎さん。「角甚」は創業330年、過去の逸話には事欠かない。たとえば文化元年(1804年)、紀伊八代藩主の徳川重倫の大峯参り。重倫はここに宿をとり、角谷家の5代目が山案内を務めることになった。大峯の行場といえば、大岸壁の上から行者を逆さに吊るして下を拝ませる「西の覗き」があるが、気性が荒く、「手討ちが趣味」と囁かれた五十万石の大名を吊るすことに周囲は慄いた。他の行者と同様に藩主を吊るした5代目はその豪胆さが気に入られ、重倫から絵や掛け軸が贈られたという。それは現在も家宝として所蔵されている。

翌日は快晴。江戸時代の大峯講の賑わいに思いを馳せながら、小南峠に向けて出発する。2日目は小南峠から天辻峠までの道のりだ。道は、奥駈道を離れるにつれて修験の色合いを失い、むしろ里山歩きの趣に。オレンジ色に色づき始めた広葉樹の葉に陽光がキラキラと射し込み、何とも美しい。天気が良かったので乗鞍岳の山頂で休憩を取り、吉野山で買った柿の葉すしの残りをゆっくりと味わう。魚の旨味と塩がすし飯に馴染み、つくりたてよりも滋味深い味わいになっていることに驚いた。どうりで“保存食”というわけだ。

3日目、天辻峠を出て一路、ゴールの高野山を目指す。天辻峠から天狗木峠までは約13km、その後はひたすら舗装道を歩く。かつて空海が吉野山から見出した、天空の宗教都市・高野山はもう目前に。

「人と人、土地と土地、文化と文化を結びつけるのが道のおもしろさ」とは金峯山寺の鷲須さんのお話だが、「弘法大師の道」では1200年という年月を超えて空海や行者と同じ道を歩き、同じ風景を目にすることで、ノスタルジーのような感傷を覚えた。事実、日本の山道には慣れているはずのパスカルも、サドルの上で味わうのとはひと味違った畏怖や敬虔な思いを今回は体験したようなのだ。今も昔も、山伏たちは過酷な環境に身を置いて自らを高め、自然のなかにいる神仏を感じて祈りを捧げる。ただ黙々と山道を歩いていると、歩く行為のなかにこそ自分を超えた何かと向き合う時間があり、何かしらの気づきを得ているのだと実感することがある。日本を歩き、各地で弘法大師像を目にするたび、不思議な縁を感じていたのだけれど、こうした山や道、自然との関わり合い方こそ、旅人・空海が後世に示したかったことなのかもしれない。
 
Old Japanese Highway 歩いて旅する、日本の古道
http://archive.papersky.jp/tag/old-japanese-highway-story/

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